退職について

98年2月

本日、品質保証課の課長が退職したと聞き、今回は今までと違い大いにショックを受け、「なぜだ!」と思わず叫んでしまった。
なぜなら、彼は二ヶ月前にこの会社と関係ある日本の大手電機会社に品質保証の実習に行き、これから実務に生かせると思って期待していた矢先の出来事だったからである。

日本企業の実習では関係部長以下担当者まで親切、かつ丁寧に指導してくれたと聞いていたし、また本人は短期間にもかかわらず検査員認定書まで授与されている。
彼の退職理由が「他の会社に移ればもっと給与が上がるから」と聞かされると、心の底で少なからず「怒り」さえ感じる。

しかし、韓国の中小企業の実態を冷静に見ると彼の行動だけを責められない事も事実である。

第一の理由は、中小企業全体の問題でもある大企業との給与格差である。日本でも同様な傾向があるが韓国では50%ぐらい格差があり、生活の向上のために自己の実力を磨き、少しでも待遇のよいところを求めて移動することは理解できる。

第二の理由はトップダウンの指示の厳しさである。上下の関係が日本よりはっきりしているし、トップの指示は絶対である。したがって結果がすべてであり成果が出なければ全ての責任は当事者にあるということになり、過程の努力はあまり配慮されない。退職した課長も部品品質がよくならない責任をトップから追及されたようだ。

第三の理由は韓国の法律にあると思う。勤労基準法第二十八条によれば一年以上の勤務者に対して次の算式で計算した、退職金を支払うことになっている。

「退職金=勤続年数×最近3ヶ月の平均給与(諸手当、ボーナス含む)」

この退職金は自己都合でも理由の如何に関わらず支給されるので、より有利な転職先さえ確保できれば比較的容易に退社できる訳である。一方会社側としても逆に給与さえ有利な条件を出せば優秀な人材を確保できることも事実である。

韓国中小企業が国際化するためにもこの問題を解決する必要があると思う。人材を育てるより外部から容易に買ってくるような状況ではいつまで経っても企業の力が向上されない、製造業では会社内に蓄積された技術が必要だが、今のように各個人にのみ技術が蓄積され、それが流動化しているようでは韓国中小企業、特に製造業の将来に危惧を感じざるを得ない。

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