2002年7月

日本では「本音と建前」という言葉が生きています。狭い共同体の中でその構成員同士が平和に仲良く暮らさなければならないという日本の地理的歴史的な条件は人間関係のありかたにも大きく影響を与えています。本音を言えば相手を傷つけたりするのでこのような時は建前を言うことで共同体の平和を保つことができます。これは皆と違う本音は控えて建前に順応するという習慣を生み自分の意見をなかなか言わない日本人への批判を生む元となったようです。日本人は自己主張より和を尊ぶために本音を控えているといえますが国際社会では通用しない場合が多いのです。

数年前に日本のある大手企業との間で合弁会社の設立の話がでました。私の立場からは日韓のお互いの意思疎通を側面から助けたつもりであるがこの交渉を通じて感じた事の一つに「本音が見えない日本人」「顔が見えない日本企業」を感じました。


交渉の窓口責任者が任命されているにもかかわらず財務、法律、製造、販売など各部門から責任者が来て問題点を指摘して交渉をするので韓国側は「合弁会社設立の意思」が本当にあるのだろうか?と私に疑問をなげかけました。設立の交渉は「建前」で「本音」は設立せず情報収集だけなのではないかとの疑念をもたらしました。日本側では各部門の合意が必要ですから各部門が納得する必要があるのは理解できます。しかしその後最終的に誰が決定するのか解りにくいし、また意思決定のスピードは驚くほど遅いのです。

結局この話は当初から3年後に日本側から「今回の話はしばらく保留にしたい」と電話で連絡があったようで、韓国側ではこれはしばらく時間を置いて再交渉という理解をしたようだが、私はこれは破談となった意味であると解説した覚えがあります。

私が韓国に来て改めて感じた日本企業の改めて欲しい点は次のような内容です。
1)意思決定スピードが異常に遅い、(ビジネスはスピードだと良く聞くが・・)。
2)一体誰が最終責任者なのか解らない。(合議制は弊害にもなっている)
3)打合せに外国人には曖昧な表現が多すぎる。(「前向きに検討」はその時だけの逃げ)

マネージャークラスの人と会議をした時、日本語の「そうですね」とだけ聞けば、韓国人は「あなたの意見に同意する」と考える。だが「そうですね」は単純なあいづちにすぎず「後で考えてみましょう」という真意が含まれています、これを誤解し失敗する韓国人も少なくないと聞きます。日本では会話の潤滑剤になる相槌も韓国人はその曖昧さは極めて解りにくく誤解のもとにもなります、要するに「本音が見えにくい」のです。これが韓国人には日本とのビジネス交渉は難しいと映るようです。

 
初対面の韓国人と日本人が酒を飲みながら話しをすると、親しくなれば韓国人はありのままの姿を多くさらけ出します。しかし日本人は酒の席が終わるまで自分の話をほとんどしません。韓国人同士では初対面でも意気投合することが多く義兄弟を結ぶこともあります。私にも韓国では義理の弟が一人居ます。しかし日本人同士ではこういうことは殆んどありません。簡単に言うと本音は心の中のことで建前は表向きの顔のこと。もちろんどんな人でも本音と建前が違うことはあります、しかし日本人は特に本音を示さない傾向が強く「本音と建前」という言葉がつくられたのではないでしょうか。

日本人も正月の年賀はがきや夏の暑中見舞い、年末と盆には葉書や贈り物をやり取りするなど努力し、付き合いを非常に重視します。こうして一度本音の付き合いが始まれば長続きしていくはずだと私は韓国人に説明しています。 韓国人はけんかしても、その後親しくなれますが、日本人はほとんどけんかをすることはありません。ひどくけんかをするようなことでもあれば人間関係は終わりと言っても過言ではありません。本音で話す韓国人、本音と建前を使い分ける日本人、日韓の生活文化の差でもあります。

 

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