2002年9月

本年の4月から韓国でもPL法(製造物責任法)が施行されました、今後は製品の欠陥商品によって損害を被った場合メーカーは損害賠償を請求される訳です。今まで以上に品質の維持・管理に関して一層の努力が必要です、品質に関する最近の話題です。

 

  ■「工場監査」
   

3日間のKS規格(Korean Standard)の工場監査がありました。品質保証部では以前から準備をしていたようで特に大きな問題はなかったようです。
しかし朝から午後7時ごろまで熱心に審査している姿に過去に話を聞いた政府関係者の賄賂体質の悪いイメージは全く感じられません。最終日に倉庫から製品をサンプリングして持ち帰り品質評価試験を行うという、品質に問題があればKS認定も取り消すとのこと・・・。そこまでやるかどうか、疑問ではありますが評価試験で基本的な問題が出るとは思えませんでした。

ところが昼食中に係官から「この会社の社長が出席してないのはおかしい、なぜか」という問いかけに「実質的に副社長が責任をもってやっているので・・」と回答したら「9月中にTOP向けの品質管理セミナーに出席しその証明書を送付しなければKS認定を取り消す」というき厳しい答えでした。企業の品質管理体制に関しても指導が強化されていると感じました。

 

  ■「精神は品質第一、行動は納期第一」
   

現場巡回中ある機種の組立ラインでのギャップ調整後のゲージチェックを実施してない状況を発見しました。早速リーダーのアジュマに質問しましたが・・・。

私  「なぜギャップのゲージチェックをしないのか?」
リーダー 「測定のゲージが無くチェックはやっていません」
「製造課長はこの事を知っているのか?」
リーダー 「知っているよ!問題がなければ良いと言ったよ!」
----今度は製造課長を呼んで聞いてみる。----
私  「なぜ規定にあるように実行しないのか?作業標準にも書いてあるではないか。」
課長 「以前はやっていたがギャップの寸法が変わりスタッフにゲージを依頼したがまだ作成してない」「生産が遅れているので・・目視チェックでやもうえないです」
私  「納期が優先し品質はどうでもよいのか!」

生産を止める難しさは解りますがなぜいつも納期が優先し品質の維持を軽視してしまうのでしょう?不良が発生しなければどんどん作業を短縮するこの現象を繰り返さないようにするためにはどうしたらよい?悩みはつきません。
この件で悩んでいる時に韓国に指導に来ている友人から同じような悩みのメールが来ました。

 

  ■Aさん(韓国に指導に来ているエンジニア)の悩み
   

 

こちらの会社では品質よりも工程重視で、お客からは日程を遅らせないようにプレッシャーが掛かっています。ここで問題は、実際の作業をするのは韓国側で、しかも作業者の質が悪く日本人側から見るととても許せない品質の悪さです。しかし韓国側からは何故日本人はこんなに厳しい見方をするのかと業者からもお客側からもクレームが来ています。

しかし私は全然問題にしていません。なぜなら彼らはガスタンクの欠陥がどんな結果になるかについて理解していないので全く譲る気はありませんし、同時に日本側の検査を合格しないと前に進めない契約があり、検査結果(手直し)は受け入れていますから。

私の疑問は、作業者の質が悪いために作業のやり直しが以前から繰り返されて日程が遅れているのに、一向に技量向上のための訓練をしようとしないし、無理な日程計画でただがむしゃらに作業を進めるやり方です。少し冷静に考えればどちらが得か簡単に分かることだと思うんですが・・・・。

私の経験では韓国は(もしかしたら日本以外は)「不良が出たらそこで直せばいい」、「その方が日程もお金も少なくて済む」と言う考えがあるようです。また、業者は本当は訓練をして着実な作業をした方がいいと理解していてもその上(発注者)がそれを許さない構造的な問題があるのかも知れないと考えています。
韓国で仕事をするときに「品質」と「日程」の考え方はどうしたらよいのでしょうか?悩んでいます。

 

 

  ■Bさん(韓国での6年間の技術指導実績のあるエンジニア)の意見
   

 

大切な事は、「韓国を指導してやるんだ!」と云う態度になりがちですが、「韓国で食べさせてもらっているんだ」と云う態度で接する事に注力しながら仕事を進めることも心がける必要があります。

その結果として社員達とのコミュニケーションもうまくいき社員達も自信をもって仕事をするようになると思います。社員の中には私のアドバイスでうまく行ったことも「自分でやった」みたいな報告も出てきましたがそれでも誉めてやるのにとまどいもありました。

最近では、私が設定した「検査規格」をより厳しくしている部分もあるみたいで部品納入業者から私宛に「なんとかならないか?」みたいな苦情も入ってきております。
日本の基準をヤミクモに押し付けないでむしろ「品質の維持と日程確保」に関して共通の土俵に乗るべきではと思いますが上手く行きませんか?

私からBさんには以下のようにメールしました。

検査員が日本の品質保証部の品質保証部による品質保証部の為の検査になっていませんか?韓国には韓国の価値基準があり「危険度」の問題だけ考えさせた方が良いのでは?もっとはっきり言えば検査基準を韓国の実情に合わせて改定し公表し、その結果として発生する危険リスクも納得させるのも一方ですが如何でしょうか?

私がもっとも危惧するのは現場の雰囲気に押され、いい加減な妥協をしないことですね品質の維持と日程の厳守問題は両立すべき会社幹部の基本問題として処理すべきと思います、まあこれは当然ですね。

それと韓国人と付き合って感じたことですが・・ビジネス以前の問題として良好なる人間関係の構築が絶対必要です、よき兄弟分になれば無理な要求でも絶対やってくれる、そんな人が多いのですが・・いかがですか?

 

  ■Aさんからの再メール
   

 

おっしゃるとおりです。日本での条件の基に作った基準に照らし合わせて検査が行われています。現状はよくない状態です。これを改善しようと試みたのですがうまくいきません。三つ理由があります。

一つはこの「検査基準」が寸法検査のように数値で明確に規定できればよいのですが、外観判定のために微妙なところは具体的に表現するのが難しいと言う事です。従って設計・製造の知識をベースに総合判定が必要です。

もう一つは日本の検査員が全員外注の検査会社であるために、当然のことながら検査基準どおりしか検査しませんし、設計的・製造的な面から説明してもなかなか理解してもらえません。検査基準を変えるしかありません。

三つ目が最も困難なことで、検査員たちは日本で今回と同様工事の経験がたくさんあり、個人ごとに判断基準を身体で覚えてしまっていて簡単には変えられないことです。
基準を作った当時は日本の社内で検査しており、現物の状態を総合的に判断できる状態だったと想像できます。しかしその後分社化、アウトソーシングが進み、これに対し検査基準が昔のまま、或いは社外検査員の教育をしない結果現在の状態になっていると考えます。(他人事のように言っていますが、事実そうなんです。)

日本での工事で問題にならなかったのは、韓国と違って前処理がよいため、少々の個人差が出ても再検査による日程への影響が少ないことと、やはり品質を重視していますから厳しいことは承知していたと思われます。しかし、日本ももっともっとコストダウンのために外注任せでなく改善が必要です。

私は東京本社にこのことを伝えていますが、この工事では改善は間に合わない(後2ヶ月で終わり)と思っています。韓国には韓国の価値基準があり「危険度」の問題だけ考えさせた方 が良いのでは?という考え方もありますが簡単にいかない問題があります。

今検査している部分は、ガスの漏れを防止する重要な部分ですが、他社の海外工事で完成後の運転に入ってから漏れが発見され現在裁判になっているところがあります。我社の日本におけるお得意先から「絶対に漏れないタンクを作ること」と念を押されてもいます。しかしこのリスク基準は日本の基準ですから韓国側には理解できないようです。

 

 

  ■1ヶ月後のAさんからのメール
   

 

品質と納期の問題はその後も平行線ですが、日本側が品質について少し譲って納期に協力する方向になってきています。その理由は前にもお話したと思いますが「検査のための検査」になっている現状を本社サイドが少し理解してきて、厳しい判定をする検査員の交代と判定基準を緩める方向で見直しをし出しました。

韓国側の強い不満が日本側を動かしたといえます。私の力不足ですがいくら言っても動かなかった本社サイドもお客には勝てないようで遅ればせながら動き出したところです。
しかしだからといって韓国側の品質管理(プロセスよりも結果を評価)を認めたわけではなく、今後も摩擦は間違いなく続きますね。ところで私達の通訳さん(韓国人)が面白い表現をしてくれました。

「韓国人はうそつき、日本人は融通がきかない」と。
韓国人は一度決めたこと(約束)でも、もっといい事(方法)または止むを得ない事
情があれば相手に連絡せず勝手に変更するし、日本人は一度決めたら何が何でも変え
ないと。今の我々日本人グループと韓国側とのギャップをよく言い当てています。どちらも困ったことです。


日本のやり方が全てベストとは思わない方が良いようです。韓国に来たら韓国の歴史・文化・経済・生活を学び韓国人の立場に立って解決を図る必要があると思います。しかし工程の変更はもっと慎重にやって欲しいし現場の判断でどんどん工程変更する事だけは絶対に許す訳にいかないのですが。。。(独り言)。

 

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