2005.6
 

   韓国の山登り専門会社のツアーに初めて参加した。かねてから希望していた韓国の最高峰である済州島の漢拏山(ハンラサン)1950mの山登りである。

 仁川港から金曜日の午後7時出発のフェリーで翌朝済州港に到着し、バスで城板岳コースの登山口に到着する。ここから「つつじ畑休憩所」まで7.2Km、「つつじ畑」から頂上の「白鹿潭(ペンノクタン)」まで2.3Kmを登る。昼食後の下山は観音寺駐車場まで9Kmの約8時間のコースを歩いたのだった
「漢拏山登山コース拡大図」

 
   
 

   仁川港に到着したのは午後6時を少し過ぎていた。カウンター前でツアー主催会社の男性が待っていたので金さん、鄭さんと私の名前を話すとすぐに乗船券と「祖国の山河」と書かれた黄色のリボン、パンフレットを渡された。黄色のリボンはリュックに付けて今回のツアー参加者(約60名)の目印になるようだ。日本ではこの「祖国」というような言葉はあまり使わなくなったが韓国人は「祖国」や「我が民族」などの言葉が好きなのだ。

 午後7時過ぎると乗船の合図です「Ohamana」という名前のフェリーで6000TON、845名乗りだった。想像したより大きい船で安心した。私達の部屋は2等級で8人用のベット式の部屋、ベットで横になると昔乗った夜行列車のベットより少し広いかなという感じ、梯子段に日本のメーカーの名前があったのを見て不思議に思い、船内を見て回るとあちらこちらに日本語は書いたあった。あァーそうか、これは日本の中古船を改装したものだと理解できた。

   
「Ohamana号(6000TON)」 
いよいよ乗船です
8人部屋(2等)のベット
日本語があちこちにある
船の夕食・カルビタン
夕暮れの船上

   夕食はカルビタン(5000ウオン)を食べ、8時からビアホールで生ビールを飲んでいると、賑やかな音楽が聞こえてきたのでデッキに出てみると多くの人がディスコダンスに興じていた。今日は気温が高いのか寒さは感じない。吹き付ける風が気持ちが良いが空はモヤのようなものがかかって星景色は何も見えない。

 花火を見学した後に部屋に戻りベットに入った。12時近くまで外の若者が発する騒ぎで寝付かれなかったが・・それでもいつの間のか眠り目が覚めたら朝の5時だった。7時から朝食(テンジャンチゲ)を済ましデッキに出て空を仰ぐと天気予報通りの曇り空だ、晴天ではないが雨ではない様でまあ良かったとほっとした。

 下船すると近くにバスが並んでいる。その内の2台目に乗り込むと直ぐに出発、約30分で登山口の城板岳コース(海抜750m)に到着した。


 
花火のサービス
デッキで踊りまくったいるが、明日の山登りは大丈夫ですか?

   登山口では入山料が1600ウオンと書いてあったが今回は全て支払い済みですぐに歩き始めた。韓国人達はかなりのスピードで歩くので最初は一緒に付いていたがだんだん遅れ始めた。登山道は良く整備されていて所々に板張りの木道が続いている。途中に白い花が鮮やかに目に入った、何の花であろうか写真を撮って後で調べると中国・韓国・日本に広く分布する「ヤマボウシ」であった。

 途中何度か休みながら登る、案内板を見ると「つつじ畑休憩所」までまだ半分歩いただけだった。同年輩らしい韓国人から「何処から来ました?」「と聞かれたから「日本から来ました」と答えたらびっくりしたようで・・いろいろ話をした。解かったことは私より3歳下で仁川市から来たということだった。もう漢拏山は3回目の登山だそうである。

 私の歩く速度が遅いのか途中で「それでは頑張ってください」と挨拶されて先に行ってしまった。

 道はだんだん勾配がきつくなって来た、ウグイスの声が聞こえた、ちょうど富士山の樹海の中を歩いているような感じだ。2時間近く歩いただろうか前方を覗くと岩の急な坂道が見えた、あそこを登れば目的地の「つつじ畑」か?・・・10分登って休みまた登っては休む。

 この繰り返しでやっと登り切ったと思ったらその向こうにもっと急勾配の山道が・・しかし時間的にももうすぐの筈、同行の友人も先に行って待っている筈であるガンバル以外なし。


 
バスから降りると直ぐに登山が始まった
整備された登山道
「ヤマボウシ」の花が美しく咲いている
かなり歩いたと思ったら「つつじ畑」までまだ半分

   ふらふらになりながらやっと「つつじ畑休憩所」に到着した。ここでしばしの休憩だ、水分補給しバナナを食べているとツアーの責任者が「もう皆さんは登ったのであなた方が最後の組です」と言われた。「ええ!そうですか・・」と言われしかたなく立ち上がりまた歩き始め火山岩の急な道を1時間近く登ると漢拏山の山頂が遥かに見えたが・・・。

 海抜1700mの標識が見えたあたりから登りがきつくなり足が上がらなくなり心臓が破裂しそうだ。この状態だと登頂は無理かなと不安がよぎりる。

 振り仰ぐと山頂に向かって仲間がぞろぞろ登ってゆくのが遥かに見えるがもう歩けない。

 同行の鄭アジュマも同じように疲れたようで一緒に休んでいるとツアーの責任者の朴さんが山頂からまた戻って来た、なにやら友人に話しています「このままだと帰りのバスに間に合わないだろうからもしそうなったら明日の飛行機を予約しますから・・」というようなことを話しているのが聞こえた。


 
ぐったりして休んだところに咲く花
あれが山頂・・まだ遠い

   不思議なことに休むとまた力が湧いてきたのだ皆さんに迷惑はかけられないと最後の力を出して頂上に向かうことにした。約一時間後にやっと頂上がすぐそこに近づいた「素晴らしい景色です!写真でも撮ったら・どうですか・・」と声がかかったが写真を撮る精神的余裕がまったく無い。板張りで出来た山頂の休憩所の白鹿潭(ペンノクタン)の見得る場所まで一気に登って座り込んでしまった。

 時計を見ると14時だから4時間半掛かったことになる。良くここまできたなと自分を褒めてやりたい。支給された弁当を開くがあまり食欲が無く、無理にキムチとご飯を口の中に入れたら入れ歯がご飯にくっ付いて取れそうになり慌てた。落ち着けと自分に言い聞かせゆっくり少しずつ食べた。

 やっと落ち着いたかと思ったらもう皆さん下山している、私達は20分ぐらい休んだだけで出発することにしました。なんとしても最終のバスには間に合わせ、翌日の飛行機などは絶対に避けたいと密かに決意した。


 
山頂の白鹿潭
ツアー責任者の朴さんと・・
大学生の団体・フェリーも一緒だった
下山の開始

   下山は心臓に負担が掛からないので楽だった。毎日のウオーキングで多少鍛えてあるから下りはかなりのスピードで歩くことが出来た。急勾配の板張りの道や火山岩の道を40分ぐらい降りると休憩所に出た、ここから「観音寺の駐車場まで2時間ぐらいかかります」と心配して付いてきてくれた朴さんが言う。ここまでくれば後は整備された道ですから駐車場で待っていますと言い残し先に下って行った。

 そうかここからは下りだな・・と安心したのは間違いだった。三つの沢を越える道が待っていたロープに掴まり下がって沢を越えると急勾配の登りの道である、最後の沢はかなり深くなっていて水は涸れている岩伝いに横切ってまた急勾配の登りだった。5,6歩登って休み、また5.6歩登って休む、この繰り返しでやっと峰の上につくとふらふらで汗びっしょり、傍の休憩のための木製台に倒れ込むように腰をおろした。

 先客の韓国人があと1時間ですから頑張りましょうと声をかけてくれた。えーあと1時間もあるのか!!ガックリする気持ちを引き締めてまた歩く。もう歩くだけ、何も考えずに歩く、歩くのだ!。

 前方を行く鄭さんが見え隠れする私の前後には誰も居なくなった。周りが林の緑と熊笹が両側を茂っている砂利道をどんどん歩いて行くとだんだん道勾配がなくなって来たのでもうすくだなと思ったのだがかなりの距離を歩いてやっと観音寺駐車場に到着した。時間は丁度バスの出発の17時半だった。

 先に到着していた金さんが待っていて冷たい水のボトルを渡してくれた。喉がカラからカラになっていたので口いっぱいに流し込んで飲んだ、冷たい水の美味しいかったことが忘れられない。この山では途中に水を補給する場所が少ない、夏などは多めの水を準備する必要がある。


 
下山は快調に歩くが・・
休憩場から見る屏風のような岩
標識が完備されている、まだ3.2Kmある
済州港フェリーターミナル
帰途の船上で今日の出来事を振り返る
仁川港で下船して・・バンザイ

 

 他の韓国人のグループより1時間近く遅れたが休憩時間を短くしたり必死に歩いたお陰で何とか最終バスに間に合った。済州港のターミナルでバスを降りたときは足が固まったのか上手く歩けず、元に戻るのに少し時間がかかった。フェリーに乗船して仲間と夕食を取り、生ビールで今日の登山のお礼と無事の帰還を祝って乾杯した。

 翌日はフェリーでゆっくり休んだせいか朝の仁川港では足腰も痛くならず山の霊気を貰ったのか不思議と体調も良く元気になった。今回の漢拏山(ハルラサン)登山は「よく頑張った」と自身を褒めてあげたい気分です。

 今回の体験から学んだ事は「韓国人の登山グループに参加する時は時間的に余裕がある登山以外は私には過酷過ぎる」ということだった。参考までにツアー料金(フェリー往復・バス・入山料・昼食・水)は10万ウオン(1万円)であった。


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